断られることも、もちろん覚悟している
断られることも、もちろん覚悟している。勝手過ぎると罵られても、構わない。それでも、今の私の気持ちを甲斐に知っていてほしかった。「本当は、怖かったの。自分の親が結婚に失敗したから、私も家庭を持ったらいつか同じようになるんじゃないかって。……甲斐と付き合い始めても、きっとその考えは変わらないと思ってた」変わらなくてもいいと思っていた。愛し合っていれば、それでいい。結婚にこだわる必要なんて、香港買基金と思っていた。甲斐がゆっくりと振り向き、互いの視線がぶつかった。「でも、私の家族と甲斐が一緒にいるときの空気とか、凄くいいなって思うようになって。恋人から家族になるって、本当は怖いことじゃなくて、本当は私が一番望んでいたことなんじゃないかって……」子供の頃からずっと、夫婦円満な家庭に憧れていた。傷つく母を見て、自分は絶対に母のようにはならないと誓った。母のようにならないためには、結婚をしなければいいと思うようになった。幼い頃に芽生えたその気持ちは、大人になるにつれ大きく確かなものになっていった。その内、結婚という言葉に対して、嫌悪感を抱くようになっていった。結婚の先に待っているものは、決して幸せな人生ではない。私はそれを身に染みて知っているからこそ、安易に結婚を望む気持ちが理解出来ずにいた。でもその考えは、私の心を虚しくさせた。結婚の先には何があるのか、深く考えずに結婚していく友人たちの姿を見て、本当は羨ましかった。私も、大好きな人と共に生きていく喜びを素直に感じてみたかった。「甲斐が、私を変えてくれたの。甲斐と結婚して、家族になって、この先死ぬまでずっと一緒にいれたら、それだけで私……」他には何も望まない。望むものは、ただ一つだけ。「ストップ」「え……」その瞬間、甲斐が私の口を手でふさいだ。そして私の手を取り、リビングの奥へと進んでいく。甲斐がソファーに座ったため、私も甲斐の隣に座った。「お前さ、いろいろ俺の想像を越えすぎ」「え?」「結婚したいとか、完全に予想外過ぎて……これって、俺の夢じゃなくて現実だよな?」独り言のようにブツブツと呟く甲斐は、私の目から見ても相当混乱しているように見えた。「ごめん、驚いたよね」「今までの人生で、今日が一番驚いた。……でも今までの俺の人生で、多分今日が一番幸せ」そう言って甲斐は、私の右手に自分の左手の指を絡ませた。「七瀬に結婚願望がないことは元々知ってたから、俺は結婚出来なくてもいいって本気で思ってたよ。でも、七瀬にその気があるなら、俺の答えはもう最初から決まってるから」甲斐は優しく微笑み、私を見つめ言った。「俺からも言わせて。……俺と、結婚して下さい」甲斐のその一言で、私の涙腺は決壊した。甲斐はボロボロと溢れ出す涙を指で拭いながら、私の大好きな笑顔を見せた。「良かったぁ……断られるかと思った……」「は?何で。俺が七瀬との結婚を断るわけないじゃん。俺がどんだけお前を愛してるか知ってるだろ」「あ、愛してるって……」「七瀬は?違うの?」「……」私の泣き顔を見つめながら、余裕の笑みを浮かべる甲斐。私が甲斐を愛してやまないことは知っているくせに。でも、そんな意地悪な甲斐も、愛しくてたまらないのだ。「……世界一、愛してる」「……改まって聞くと、結構恥ずかしいな」