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「容保様はお元気ですか?」

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「容保様はお元気ですか?」ダンッ一瞬にして斎藤の力が入り、紫音は競り負けて後方に飛ぶ。また互いに竹刀を中段に構えて、距離を取る二人。道場は静寂に包まれる。「やはり貴方が…」言いかけたところで斎藤が踏み込んできた。早い突き。紫音は体を捻らせてそれをかわし、斎藤の胴を狙って竹刀を横に振るう。が、斎藤も地を蹴って前に出る事で回避する。再び対峙した二人。「お願いがあるんです」「………何だ?」「会津からの密偵、私って事にしてくれませんか?」斎藤は眉根を寄せて紫音を見た。「…俺は密偵だと一言も言ってない」その斎藤の言葉を聞くと、買賣股票 突然飛び出した。面を打ってくるかと構えた斎藤だったが、紫音は竹刀を振り上げてはいない。いつ竹刀をおさめたのか、気付かなかった。…来ないのか!?と戸惑った瞬間、目の前から紫音の姿は消えていた。ヒタ…首元に伝わる冷えた感触。冷や汗が伝う。が、待ち構えていた斎藤に訪れたのは、紫音の笑い声だった。「えぇ、口では言ってませんでしたね。…でも、貴方の剣はそれを肯定していましたよ?」「何だと?」「だから剣でのお相手をお願いしたんです。良くも悪くも、剣から伝わるものに嘘はありませんからね。ですから、私が良からぬ事を考えてはいない事も伝わった筈です「……………」「沈黙は肯定と同意ですよ?」そう言うと、紫音は斎藤の首元から竹刀を下ろした。「斎藤さん?」「………何だ?」「信じて下さい。私は味方とは言えませんが、決して敵ではありません。ただ、真に幕府を思う者を探しているだけです。近藤さんがそうであるかを見極めたいだけ。貴方が私が新撰組の害になると判断すれば斬って下さい」「何の為に探しているのだ?それを探すお主は佐幕派ではないのか?」「…望んでる方がいるからですよ」「…そうか」「土方さんは会津の密偵がいると知っています。それは私って事になってますから、よろしくお願いしますね」確実に断らないと思ったからか、紫音は深く頭を下げた。紫音の真意はわからなかったが、嘘はついていないと斎藤は思う。だから了承の意を込めて、紫音の頭を上げさせた。「…俺の負けだ」そう言うと、斎藤は紫音の置いた竹刀を手に取り、紫音に渡す。首を傾げると、斎藤はほんの一瞬だけ表情を綻ばせて「もう一本」と要求した。「…え?」「先程は動揺した。今度は本気で参る」言うが早いか、斎藤は竹刀を構える。紫音はくすりと笑うと、「仕方ないですね」と構えた。が、後でそれを後悔した。斎藤は相当の負けず嫌いらしい。完膚なきまでに負かしたいのか、さすがの紫音が音を上げ「負けました」と言っても、竹刀を放してないからか、「まだまだ」と打ち込んでくる。気付けばとっぷり日が暮れて、巡察に行っていた沖田が帰ってきて見たものは、汗だくになる二人の姿だった。紫音『斎藤一…もう二度と仕合しない…』と固く決心したのであった…。好き勝手にやり過ぎた儂が辿る道など、わかっていた。だが、後悔などはしておらん。儂はすべての膿を持っていく。これが儂の最期の「誠」―――。新見が死んだ。切腹したと聞いた。…だが、それは嘘だと知っている。次は儂だ。