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甲斐の誕生日が過ぎて無事に一年が終わり、新たな年を迎えた

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甲斐の誕生日が過ぎて無事に一年が終わり、新たな年を迎えた。年越しは甲斐も自分の実家に帰るのだと思っていたけれど、実家に帰る私に付き合ってくれた。母が作った年越しそばを、家族と甲斐と一緒に食べる。皆で紅白を見ながらみかんを食べ、まったりと過ごす。それが私にとっては、贅沢な時間だった。新たな年を迎えたからといって、別に何かが大きく変化するわけではない。毎日同じ時間に起きて、職場に向かい、同じくらいの時間に帰宅する。でもそんな毎日の中で、私の心に少しずつ変化が起きていることに、私は気付き始めていた。甲斐は週に約二日、仕事の後私の家に来てくれる。投資債券日は私の家に泊まり、土日も大体一緒に過ごすことが多い。私も月に何回かは甲斐の家に行き、泊まることはないけれど一緒に夕飯を楽しんだりもする。そうやって互いの家を行き来しながらも、ちゃんと距離感は大事にしてきた。二人で過ごす時間はもちろん大切だけれど、何も考えず一人でのんびりと過ごす時間も必要だ。だから私は、甲斐と付き合い始めてしばらくはその距離感を意識しながら過ごしていたのだ。「依織、そろそろチャペルの方に移動だって」一月下旬のこの日、私は蘭と一緒に専門学校の頃からの友人の結婚式に参列していた。「何でわざわざ冬に結婚式すんのかな。結構参列するの大変じゃない?靴とか履き替えなきゃいけないし」「確かにね。でもおめでたいことなんだから、いいじゃない」文句を言う蘭の気持ちもわかる。北海道の冬の結婚式は、参列者にとってはなかなか手間のかかるものだ。それにワンピースの上に厚手のコートを羽織っても、やっぱり移動のときは寒いのだ。「でもさ、あの愛理が結婚するなんてね。男なんて大嫌いだって言ってたのに、人ってやっぱり変わってくんだね」「……きっと自分の価値観を変えてしまうくらい、いい人に巡り会えたから結婚を決めたんだろうね」この日の主役で私と蘭の共通の友人でもある愛理は、彼氏なんて一生いらないと昔はよく口癖のように言っていた。彼女は父親と不仲で、そのこともあってか男性にずっと不信感を抱いていた。でもあれから約十年が経ち、今日は素敵な旦那さんの隣で幸せそうに微笑んでいる。

専門学校の頃、あんなに嫌っていた父親とも親しげな雰囲気だ。月日が経てば人は変わるものなんだな……と、彼女を見つめながら思った。チャペルでの挙式が終わった後、私たちはホテルの披露宴会場へと移動した。私と蘭の席は、専門学校の頃の友人七人で構成されたテーブルに配置されていた。「依織も蘭も、久し振りに会ったけど変わってないね!二人とも、職場一緒なんでしょ?」「そうなの。たまに昼休憩被ったときは、一緒にランチしてるよ。ね、蘭」「依織とは配属されてる科が違うから、昼ぐらいしかゆっくり話せないしね」「相変わらず仲良いね」友人の結婚式の場は、たちまち同窓会の場にもなる。社会人になると、会いたくてもなかなか会えなくなるものだ。特にこうして大勢で集まる機会なんて、ほぼないと言ってもいい。同級生の中には、もう仕事を辞めて子育てしている子もいれば、他の職種に転職した子、私や蘭のように新卒で入った職場で今も働き続けている子もいる。